片翼の蝶



今度は窓際の席の女の子の横に行くと
グラグラと体を揺すった。


揺すったけれど当然その子の体が揺れるはずもなく、
代わりにその子は男の子が触れている側の肩をゆるくさすった。



無理よ。


あなたのことは、ここにいる誰にも
見えてはいないんだから。



心の中でそう呟くと、
その心の声に反応したのか、
男の子が私に近付いてきた。


いやあ!来ないで!


冷や汗をかきながら
必死に知らないフリをしていると、


ガタン!と大きな音がした。


見上げると私の前の席の男子が
椅子から崩れ落ちていた。


寝ぼけていたんだろう男子はあれ?と
慌てた様子で辺りをキョロキョロと見渡す。


みんな笑っていたし、先生もつかつかと
歩み寄って来てその男子を怒りつけていた。


男の子はどこ?


慌てて目を凝らすと、男の子は
先生の背中におぶさっていて、


助かったと思った。


危ない、危ない。


面倒なことになるところだった。






幽霊が見えるからと言って、
私は幽霊の声に耳は貸さないし、


見えても見なかったフリをする。


面倒ごとに巻き込まれたくないもの。


小さい頃こそ聞こえたり見えたりするものに
いちいち反応していたけれど、


無視ということを覚えた。



それからは楽なものだった。



幽霊が見えるなんて、気持ち悪いことだけれど。




そしてもう一つ、
幽霊が見えるからと言って、
除霊のようなものは出来ない。



私には見えるだけ。
だからどうしようもないの。


それならば見ないフリ、
聞こえないフリをするのが一番いい。


そうやって生きてきた。


もしかしたら一生こんな体質でいなくちゃいけないのかな?


そう思うと頭が痛い。






長い授業も終わりを迎えて、チャイムが鳴り響く。


みんなが一斉にガタガタと教科書をしまい始めて、
私も慌ててノートをしまう。


誰にも見られてはいけないの。


これは私の一生の秘密なんだから。



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