片翼の蝶
図書室を出て教室まで戻ると、
貴子が取り巻きと一緒にお喋りをしていた。
私を見つけた貴子は笑顔で手招きをする。
さっきのことはもう怒っていないのか。
どちらにしてもほっとした。
私は胸をなでおろして貴子のもとへ駆け寄った。
珀は貴子が苦手なのか、嫌そうな顔を見せた。
でも、女の子ってみんなこんなものよ?
貴子は女の子の中の女の子で、
誰もが憧れる存在。
私だって貴子みたいになりたいもの。
だから貴子と一緒にいる。
理不尽なことが起こっても、
どうしても嫌いになれないでいた。
いつか本当の友達になりたいと思っている。
いや、友達なんだけど、
なんていうのかな。
たまに自分はどうしようもなく
嫌われているんじゃないかと思うことがある。
貴子はどうして私なんかと一緒にいるんだろう。
そう思ってしまう。
だからいつか、そんなこと思う必要もないくらい、
完璧な友達になりたい。
そのためには、私が
変わらなくちゃいけないんだろうけれど。
お昼休みも終わりを迎えて、
私たちは各々自分の席についた。
机の中からノートを引っ張り出して
午後も物語の世界に没頭する。
珀は私から離れて教室をウロウロし始めた。
退屈なのかな。さっきみたいに、
私の物語に口出ししてくれていたほうが
私的には楽しいのに。
ちょっと寂しさを感じながらも、ペンを動かす。
時折珀が視界の隅に映るとその姿を確認して、
またノートに視線を移す。
それの繰り返しだった。
今書いているのは、とあるお城に住むお姫様と、
その家来として働く男が恋をするお話。
絶対に交わることの無い、
点対称の二人が密かに惹かれていく様を書き出すには苦労した。
でも、頭の中で思い描いた情景に
近付いていく瞬間が面白い。