片翼の蝶



私は読むのは早いほうだ。


今度時間を計ってみたいくらい、
私の本を読むスピードは速いと思う。


一日一冊のペースで読み進めるとしたら、
一年で三百六十五冊の本を読むことになる。


今回も私は早い段階で本を読み終えていた。


しばらく同じ体勢で読んでいると
体が固まってしまうよう。


凝った肩を叩いて大きく伸びをする。


そして天井に目を向けた。


読み終わるとなんとも言えない気持ちになる。


そしていつも思うことは一つだった。





――書きたい




パソコンを起動させて、真っ白なページを開く。


手を組んでポキポキと鳴らすと、
キーボードに手を這わせた。


何を書こう。


私は、何を書きたいんだろう。


そう思っていると、珀が私の隣にいた。


〈何か書くのか?〉


「うん。書きたいお話があって。
 でも、上手く書けそうにないの」


〈どんな話を書きたいんだ?〉


「あのね――」


私は今頭の中に浮かんでいる
物語の概要を珀に語って聞かせた。


それは、一心同体。


心臓の病気で入院していた女の子が
心臓移植手術をして新しい人生を手に入れる。


すると彼女の体にある変化が起こる。


何もしていないのに、勝手に涙が溢れる。


急に体が軽くなる。


気付けば人助けをしている。


聴いたこともない音楽に胸が躍ったり、
見たことの無い景色を恋しく思ったり。


そしてついに、身に覚えのない日記を書くようになる。


彼女は驚いて何が起こったのかと考えるが
思い当たる節はない。


けれどそれらは全部、
移植した心臓のドナーの意志だった。


その日からその
ドナーらしき少年の夢を見るようになった女の子は、


次第に少年のことが気になりだす。


自分の体を通して触れる少年の姿に、
女の子は知らぬ間に恋をしてしまう。


そんな物語。


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