政略結婚ですがとろ甘な新婚生活が始まりました
「紺色のリボンバレッタ、彩乃さんのものですよね?」
赤名さんが答え合わせをするかのように言う。


リボンバレッタ? 


彼女の問いに彼との出会いを思い起こす。脳裏にあの日の光景が浮かび上がる。

赤名さんがイタズラッ子のように笑んだ。


「専務はあの日からずっとリボンバレッタを執務机の引き出しに入れているんですよ。大事な人に出会えた日の宝物なんですって」


その言葉に胸が熱くなる。頬がカアッと赤くなった。


あの日は彼にとって最悪な日じゃなかったの? 宝物だなんて、どうしてそんなことを言うの?


ここに来てから、ずっと我慢してきた涙が堪えきれずにはらはらと零れ落ちた。想いが溢れ出して言葉にならない。


まさか、そんな風に想ってくれたの? ずっと私を見てくれていたの?


私は彼のことを全然知らない。私はあの人の何を見てきたのだろう。

誰もが憧れる名だたる大企業の御曹司。有能で切れ者で容姿端麗。

周囲の評判や噂ばかりを信じてきちんと彼を見ていなかった。


あの人は言葉じゃなくて、態度で私を大事にしてくれたのに。強引でも私が本当に嫌がることはしなかった。


胸の奥から熱く激しい想いがこみ上げてくる。


彼に会いたい。会ってこの気持ちを伝えたい。彼の本心を聞きたい。


もう逃げてばかりは嫌だ。逃げて失いたくない。

自分が欲しいものを諦めるのではなく、与えられるのを待つのではなく、きちんと手にしたい。


あの人に選ばれたい。


それと同時にもう彼を諦めなくていいんだ、彼が許してくれるなら傍にいていいんだという安堵に似た気持ちが身体中に拡がった。
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