政略結婚ですがとろ甘な新婚生活が始まりました
6.答え合わせ
タクシーで自宅まで送ります、と何度も言ってくれるふたりの申し出を丁重にお断りして、私は相良さんが停めてくれたタクシーに乗った。赤名さんは最後まで心配そうな顔をしていた。

赤名さんの裏表のなさと優しさに私は心から感謝した。拙い言葉でその気持ちを伝えたら赤名さんは泣き出した。

驚く私に、相良さんが、赤名さんは一見冷たそうに見えて感受性が豊かだ、と教えてくれた。そういうところは家系だと苦笑していた。

見送ってくれるふたりに何度も謝罪と感謝を告げて私は自宅に向かう。

明日、きちんと彼を自宅で出迎えたい。私のこの小さな家出で彼に心配をかけたくない。彼ときちんと話をしたい。


行き道とは全く違う気持ちで窓から流れていく景色を車中から見つめる。

先程とは違う意味で緊張して、意味もなくワンピースの皺を伸ばす。自宅につくまでの時間が永遠のように長く感じられた。

マンションのエントランスに着いて、料金を支払って降りる。


顔を上げた私の足がマンションの入り口に佇む人を目にして止まった。思わず息を呑む。


そこにはいるはずのない人がいた。


会いたくて仕方なかったけれど、まさか、という思いが頭を駆け巡る。


「環、さん……」


唇から漏れた私の声は掠れていた。

本物、なの? どうしてここにいるの? 帰国は明日でしょう?


「……どこに行ってた?」


感情の読み取れない低い声。こんなにも平坦な彼の声は初めて聞いた。

落ち着いた声なのに狙いを定められた獲物のような気持ちになるのはどうしてだろう。

いつもとは違うほんの少し乱れたスーツ姿。
一旦帰宅したのか、手ぶらでネクタイは外されている。首元のボタンがふたつほど外されたワイシャツ。

そこから見える喉ぼとけが妙に色っぽくて、こんな状況だというのにドキドキしてしまう。
< 124 / 157 >

この作品をシェア

pagetop