政略結婚ですがとろ甘な新婚生活が始まりました
「あの、環さんっ……」


意を決して顔を上げ、口を開いた私の言葉は最後まで紡げなかった。

彼が荒々しく私の唇を塞いで噛みつくようなキスをした。顎を彼の大きな片手で掬い上げるように固定されている。

突然のことに頭がついていかない。逃れようとすると、もう片方の手が私の腰にがっちり回って身動きができない。こんなキスは初めてでどうしてよいかわからない。


「うう、ふうっ」


何度も繰り返される口づけに頭が朦朧とする。必死でドンッと両手で彼の胸を叩くけど、彼の身体はびくともしない。むしろ私との隙間を失くすかのようにピッタリと身体をくっつけられる。


「秘書から聞いた……離婚なんて絶対にしない」


嵐のように激しいキスの合間に、背筋が凍えそうなくらいの低音でうめくように彼が囁く。

その声には悲壮感が漂っていてハッとする。近すぎる距離で見た彼の漆黒の瞳には見たことがないくらいに暗く、切なさが滲んでいた。

どうしてそん
な目で私を見るの? どうして離婚届をもらいに行ったことを既に知ってるの? 赤名さん以外の秘書の方から聞いたの? それはいつ? 


頭の中が混乱している。尋ねたいけれど、今はもっと大切な言葉を彼に伝えなきゃいけない。


「ま、待って、環さん!」


追いかけてくる唇に私は必死で伝える。


「私、離婚なんて考えていない!」


キスの合間に叫んだひと言に、彼の動きが一瞬止まった。その機会を逃してはならないと私は必死で言葉を続ける。


「あなたが好きです!」


言い放って彼の顔を見ると、彼は呆然とした顔をしていた。無表情と言っていいかもしれない。

私の顎を持ち上げていた手から力が抜けていく。
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