政略結婚ですがとろ甘な新婚生活が始まりました
「彼女は俺が何より大切だと言ってくれている。彩乃は俺が一番じゃないだろ?」

尋ねてもいないのに淡々と『好きな子』の情報を与える。それは遠まわしの批判のようだった。

微かに震えて冷たくなっていく指先を温めるように、カップを両手で包み込む。カタカタと震える指先へじわりと伝わる温もりに、これが夢でも聞き間違いでもないのだと思い知る。

「彩乃ならわかるだろう?」

私を試すかのような台詞を吐く彼に、言葉を発せない。

黙ったままの私にイラ立ったのか、不機嫌な声を出した。

「お前のそういうすぐに黙り込む姿にいい加減疲れた。付き合ってみたら変わるかと思ったけれど一向に変わらないし、イライラする」

それはとどめのようなひと言だった。その言葉は鋭い刃のように胸を突き刺す。

「……ごめんなさい」
先程から温かなコーヒーを口にしていたにも関わらず、絞り出した声は小さく乾いていた。

私の『好き』はあなたの望む『好き』にはやっぱりなれなかった。

カップを包む両手に無意識に力がこもる。
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