政略結婚ですがとろ甘な新婚生活が始まりました
「とにかくそういうことだから、俺たちはこれで終わりだ」

私の言葉も気持ちも何ひとつ聞かずに、長居は無用とばかりにサッと席を立つ。

隣の席の背にかけてあった紺色のコートを羽織り、せめてもの償いのつもりか伝票を持つ。

踵を返し、コーヒーショップの出口に向かっていく。

扉につけられた鈴がカラン、と涼やかな音色を響かせる。彼がコーヒーショップを出ていく姿がぼんやりと目に映った。

振り返ることすらしない。私の声は喉に貼りついたように出てこなかった。

ガラス窓を覗き込んで、遠くなっていく後ろ姿をぼんやりと見つめる。温度差のせいか、少しだけ曇ってしまったガラス越しに見える足取りは迷うことがない。

グッと唇を痛いほど噛みしめる。そうでもしないと、取り乱してみっともなく泣いてしまいそうだ。

そんなことはできない。今の私に泣く資格なんてない。

暖かな店内で、私だけが冷え冷えした心を抱き続けていた。冷めていくコーヒーの表面に強張った表情が映っていた。
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