政略結婚ですがとろ甘な新婚生活が始まりました
翌日の木曜日。憂鬱な心を引きずりながらも出社した。

私は毛糸などの毛紡績に強みがある繊維会社の本社に勤務している。
生地の開発、卸だけではなく、実際に直営の小売り店舗も展開している。繊維業界の中では古株の中堅企業だ。
社名を出せば、ほとんどの人が商品に縫い付けられている我が社のロゴマークを思い出してくれる。

日本橋駅近くにある十階建ての本社ビルが勤務先だ。私はそこから電車で一時間弱の場所でひとり暮らしをしている。

現在、社会人六年目の二十八歳。私は経理部に所属している。

学生の頃とは違い、彼氏と別れたからといって休めない。お給料をいただいているし、仕事に責任がある。

けれど今日ばかりは出勤することが辛かった。隆は当社の取引先の人間だ。私たちの交際は公言していたわけではないけれど、知っている人は数人いた。

凍りついてしまったような心を抱えながら、午前の業務を必死にこなした。上司から渡される伝票を機械的に受け取る。いつも以上に人と言葉を交わさず、目の前にある仕事を淡々とこなし、パソコン画面ばかりを凝視していた。

昼休みになり、いつものように同期の親友が昼食に誘いに来てくれた。あまり社交的ではない私には社内でそれほど親しくしている人はいない。
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