政略結婚ですがとろ甘な新婚生活が始まりました
「彼の中でもう私とのことは終わっていたの」
自嘲気味に告げる。

「どうして怒らないのよ! 文句のひとつくらい言ってやればいいじゃない。あの男に彩乃はどれだけ尽くしてきたのよ!」
 怒りが収まらないのか、眞子は水が入ったグラスをギュッと掴む。カランとグラスの中の氷が揺れる。

「尽くしてきたわけじゃないよ。私がそうしたかっただけ」
かぶりを振る私に、眞子は反論する。

「そんなわけないでしょ! あの男、どれだけ我儘だったか!」
あの男、と既に名前すら呼ばない親友の態度に苦笑する。

まるで自分のことのように怒ってくれている姿に優しさを感じる。彼女は小さな頃からそうだった。天真爛漫で喜怒哀楽がはっきりしていて、感情を素直に外に出す。

隆に言われて変えたことがこの半年でいくつかあった。

『髪が長いほうが好きだ』

そう言われて付き合うようになってから、髪はずっと伸ばしてきた。

『眼鏡は嫌いだ』

普段会社や自宅では、焦げ茶色のべっ甲柄の眼鏡をかけている。コンタクトも持っているけれど、パソコンを長時間使用すると目が乾くので眼鏡のほうが楽なのだ。

彼は私の眼鏡姿が嫌いだった。地味な私の外見がさらに地味に見えるからだろう。お洒落に気を遣う人だったから、許せなかったのかもしれない。そのため彼に会う時は眼鏡をかけなかった。
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