政略結婚ですがとろ甘な新婚生活が始まりました
「何よそれ、聞いてない!」

クシャリと彼女の手の中でほかのサンドイッチが入っている紙袋が音を立てる。案の定眞子は不機嫌になっている。

「ご、ごめん、なかなか言い出せなくて」
しどろもどろで謝る私。

「もう、どうして相談してくれなかったのよ! どうせひとりでウジウジ悩んでたんでしょ!」
怒るというよりは私のことを心配してくれている眞子の姿に、私はふいに涙がこみ上げた。

「眞子……怒っていないの?」
恐る恐る尋ねると当たり前でしょ、と言われた。

「私に黙って梁川専務との恋を育んでいた件は腹立たしいけど、私に心配かけたくなかったんだろうなってわかるから、もういいわよ。その代わりこれからはきちんと全部相談してよ! それよりも入籍! 素敵じゃない! なんで嫌なのよ。いいじゃない。あんなに悩んでいた条件から解放されるし、お互い独身だし何も問題ないのに」

腑に落ちないといった表情を浮かべる彼女に、私は小さく俯く。
てっきり入籍に反対だと思っていたのに、親友の意見に気圧される。

「……入籍って夫婦になることでしょ? 一緒に添い遂げるって誓いでしょ。そんな神聖なものをこんな策略とかで軽く扱ってしまっていいのかなって。一生に何回もあることじゃないのに、そんな軽々しく決めていいのか、正しいことなのかわからなくて」

手つかずになっているハムサンドイッチはとてもおいしそうなのに食欲がわかない。

午後の仕事のためにも食べなければいけないのに。
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