サイレン
彼の名前は、上原清春というらしい。
終電を逃した酔っ払いが数人と、旅行客なのかキャリーケースを引いた大学生くらいの女の子二人。ファミレスの客はそれだけ。
ドリンクバーを時々取りに行っては、携帯を眺める二人の女の子以外は、みんなテーブルに突っ伏して寝ていたりして動きのない明け方の店内だった。
「あんたの名前は?」
「私は須藤凛です」
聞かれたから名乗ったっていうのに、彼は「へぇー」と気のない返事をしながらメニューをペラペラめくっている。
どうしてこういう展開になったかというと、お腹がすいたという彼にお詫びにご飯をご馳走すると私が申し出たのだ。
もしかしたら家に帰って寝たいと言われると思ったのだが、彼は即答で「行くか」と決断。すぐさま近くのファミレスに車を滑り込ませた。
よほど空腹に耐えきれなかったのだろう。
「ガッツリ食ってもいい?」と聞いてくるあたり、遠慮はしないようだ。
彼は「爆弾ハンバーグセット」「ペンネアラビアータ」「ごろっとフライドポテト」を注文していた。
メインになりうる料理を二つ頼んでいることに若干驚いていると、それに気がついた彼が口元に笑みを浮かべる。
「昼や夜ならもっと食えるよ」
「……今まで会ったことない人種かも。いま注文してた、爆弾ハンバーグの爆弾ってなに?」
「でかいってことじゃねぇの?二百グラムだってさ」
「よくそれで太らないわね」
「─────ちゃんと俺の裸見てんじゃん」
「ち、違っ……!!」
躍起になって言い返そうとしていると、ケラケラと彼が笑った。
静かな店内に声が響いても、彼はまったく気にしていないようだ。