サイレン
たかがサラダ一品と、ちゃんとした料理三品を並べたら、普通に考えればサラダの方が先に食べ終わるはずなのだが、この男にかかるとすべて覆されてしまうらしい。
私だって食べるのはそんなに遅い方ではないのに、サラダを半分食べ終わる頃にはもうすでに彼の前に並ぶお皿はすべて空っぽになっていた。
お見事、としか言いようがない。
たぶんここまですごい人には、会ったことがない。
気がついたら拍手を送ってしまっていた。
「大食いで、しかも早食い。……鮮やか」
「別に普通だろこんなもん。現場じゃみんなこうだ」
「職業柄そうなるの?」
「須藤さんが遅いだけなんじゃねぇの、単純に」
彼に呼ばれた「須藤さん」が、ちょっと歯痒いというかむず痒いというか、変な感じがした。
でも名前を名乗ったのだから呼んでくれているだけなのは分かるけど、「あんた」からの昇格が妙な高揚感を抱かせる。
たらふく食べて満足そうな顔をしていた上原さんは、ふと思い出したようににやりと笑った。
「あぁ、そうか。須藤さんが今まで付き合ってきた男には早食いはいなかったってことね」
「……は!?別に恋愛遍歴は関係なくない!?」
「いや、あれだけ飲んだくれてたから男絡みかと思って」
「違うわよ!失礼な!」
女がお酒を飲みたくなる時イコール恋愛のこじれ、だと勘違いされては困る。こちらにだってそれなりの事情があって飲んでいたのだから。
否定したことで彼はとても意外そうに身を乗り出してきた。
「じゃあいったいなんで?」
「……興味あるんですか、私に」
「─────うん、まあ」
えぇ、そこは認めるってわけ?
内心かなり動揺したけど、顔には出さないよう極力つとめた。