サイレン
「仕事で色々あって飲んでました。……私、コンサルタント会社に勤めてるんですけど、そこでとある会社と契約したんです」
「……コンサルタント?ダメだ、俺そういうの疎い」
せっかく話し出したっていうのに、彼の目から一瞬で興味の色が消えた。どうやら彼の生活する範疇にコンサルタント会社は存在しないらしい。
でももう話を聞いてほしいモードへ突入している私は、構わずに続けた。
「売上が近年伸び悩んでる原因を分析して、経営の問題点をいくつか取り上げて、いつも眉間にシワを寄せてる役員さんたちを助けたい一心で毎日毎日話し合って。それでウェブを利用した集客とページ更新やSEO対策なんかを全部叩き込んで、最終的にはパートナー企業を倍に増やしたんです。で、結果は二年で売上が倍になって、お客様のリピート率が八割超え。これってすごいことなんですよ」
「─────俺は須藤さんの話の九割が理解できてねぇぞ」
「………続けてもいい?」
「聞いてねぇな、人の話」
絶望的な表情を見せる上原さんを完全無視して、手元に視線を落とす。
「順調にいってたからこのまま波に乗れるって思ってたら、つい先日、担当を代えてくれっていきなり言われて。何が何だか分からないうちに先輩に担当が変わっちゃって。昨日、会社に乗り込んで理由を聞きに行ったら……、少し前にナンパされた男を思いっきり振ったんだけど、その男がまさかのその会社の息子で。─────こんな偶然ってある!?あんなに会社のために頑張ったのに!」
下を向いていた視線をぐいっと上げて、私は目の前に座る上原さんに訴えるように問いかけた。
テーブルを挟んで座る彼は眉を寄せてこちらを見ていたけど、すぐに何かを考えるように押し黙る。
その間、一切視線を逸らすことなく彼を見つめていたら、やがて考え終わったらしい上原さんと真正面で目が合った。
「つまりそれって、男絡みじゃんか」
「………………え、そんな返し?」
「そうだろ、冷静に考えたら」
「だって……、ほんっとーーーに非常識な奴だったんだもん、その男!しつこいし、ベタベタ身体とか触ってくるし!突き飛ばしたのがいけなかったのかなぁ」
「世間は狭いってことだな」
彼はまた頬杖をついて、鼻で笑うように息をついた。