サイレン
リビングと寝室の電球を滞りなく取り替えた彼は、私が借りていたダウンジャケットを羽織るとさっさと玄関へ向かった。
その後ろ姿に話しかける。
「あの、何かお礼を!」
「朝メシ奢ってもらったからいらない」
「でも色々と迷惑かけちゃったし」
「別にいいよ」
─────会う口実を探してる自分がみっともない。
素っ気ない彼と必死な私があまりにも対照的で、なんだか滑稽に思えてしまった。
玄関には、私のワードローブになっている二足のパンプス(片方はアスファルトまみれ)と、彼の一回り大きなスニーカー。迷うことなくスニーカーのかかとを踏むように素早く履いた上原さんが、こちらを振り返る。
「じゃ、どうもな。ご馳走様」
「いえ、こちらこそお世話になりました」
「ちゃんと電球交換してくれるやつ、見つけろよ」
「…………余計なお世話です」
最後まで憎まれ口を叩き、彼は玄関のドアを開けてするりと出て行った。
あっけない最後。
こんな出会い方なんか、どうしたって恋愛に転がるわけないのに。私も何を期待していたんだろう。歳だけとって、判断力が鈍くなったのかもしれない。
彼を引き止める術も持っていないのだから。
判断力っていうか、恋愛力か。
冷たい廊下に座って、一人でくすくす笑った。
アスファルトに寝るような女なんて、そりゃあ無理に決まってる。