サイレン
「本当の目的は、こっち」
私は後ろに隠していた違う袋を彼に渡した。
「お弁当です」
「え!?」
中身が想像と違ったようで彼はとても驚いて、そして袋の重さを確認するみたいに何度か上下に動かした。
「いったい何人分の弁当入ってんの?」
「一人分。上原さんのだけ」
「…………あ、そう」
マスクをしているから、どんな口元なのか見えない。
笑ってるのか、それとも何の感情も色をつけていないのか、迷惑なのか。
いま考えると、男の人にお弁当を作ったのは初めてだ。
「上原さん、すっごいよく食べるから。野菜も食べないって言ってたし、栄養満点にしておいたの。サラダは入れなかったけど、野菜炒めとか、上原さんの嫌いな彩りでブロッコリー入れたり。……外食やコンビニだけなんて、良くない」
わりと手の込んだおかずをこの量で作ったのだから、かなり時間がかかった。
しかしながら、不思議なことに全然苦ではなかったのだ。
昔から料理は得意だったし、普段から自炊をしているからというのもあるが。
渡す人が、上原さんだからというのが一番の要因だというのは自分でも気づいていた。
「─────いい歳して俺もダメだな」
と、不意に彼がつぶやいた。
なにが?と返すと、彼はおもむろにマスクを顎まで下げる。その口元は微笑んでいた。
「下手な嘘がつけないから、好きでもないやつにこれされたら突き返すだけなんだけど」
「……突き返す?」
「突き返すわけねぇだろ」