サイレン
確信のこもった彼の表情に、私の張り詰めた心が緩んでいく。
普段愛想笑いなどしそうにない彼がふとした瞬間に見せる、この笑った顔はなかなか素敵だ。
「電球交換は可能ですか?」
「即日対応」
「アスファルトに寝てる女でも?」
「対応します」
「…………仕事終わったら、会えない?」
「─────最初から、会いに行くつもりだったよ」
なにそれ!と言いながら抱きついた。
作業着からは鉄のようなツンとしたにおいや、少し汗の混じったようなにおいがする。それは、彼が頑張って仕事をこなしている証のようで、今の私にはたまらなく心地いい。
「来るなよなんて言うから分かんないじゃない」
「汗くさいかなぁと思って」
「そんなの気にしないのに!」
二人で抱き合って笑った。
いい歳して、こんな恋のはじめ方しかできないなんて。
大人になると人を好きになるのは難しいかと思ったけど、意外と簡単だった。
「人が作った弁当食うの久しぶり」
「……ちゃんと野菜食べてね」
「あー、……うん」
栄養管理はお任せ下さい。
おしまい。