サイレン
私はたしか、友達の依子と飲んでいたはずなのだ。
それで、彼女に散々愚痴っていた。
飲んで飲んで飲み続け、届いたばかりのお酒を喉に流し込み、次々に新しいお酒を頼む。
いきつけの居酒屋だったから、マスターに「そろそろやめといたら?」って言われるまで飲んだのだ。
いいくらい飲んで、依子とは現地解散。
そこから、見事に記憶がない!
青ざめる私の足元に、ポイポイッとゴミでも捨てるみたいに何かを投げられた。
見下ろすと、アスファルトの一部がこびりついた私のヒールパンプス。お気に入りの一足だったのに、もう絶対に履けないような無残な姿になっていた。
「俺たちが気づいた時には、もう寝てたんだよ」
と作業着姿の男に恐ろしい言葉を吐かれて、その先は聞きたくないと泣きそうになる。
「一応お聞きしますが……、舗装したてのアスファルトの上に寝ていた、と?」
「他にもあるよ、ほら」
おもむろに彼が取り出したのは、こちらも無残になったアスファルトつきのウールコートと、昨年ボーナスで買ったけっこうお値段のするバッグ。
「バッグを枕代わりにしてな、グースカと」
「ああもう!ごめんなさい!!本当にすみません!!」
さっきまで横になっていた寝心地の悪いソファーの上に正座して、私は人生初の土下座をした。
頭を下げたままの私の上に、彼はさらに言葉を浴びせる。
「悲惨だったよ。丁寧に直したはずのアスファルトが、あんたが大の字になって寝てる姿に型取りされてたんだから」
「も、申し訳あり……」
「謝られてももう遅い。終わったことだ。揺すっても全然起きねぇし。ここまで運ぶのどんだけ大変だったか」
はい、すみません。本当に申し訳ありません。
小さな声で、謝罪を繰り返すしかなかった。