サイレン


怪訝そうな彼を見上げて、いつかテレビで聞いたうんちくを話す。

「お湯のせいでシンクも傷むし、流れていく配管の接合部分の接着が剥がれたりするんですって」

「ふーん。じゃあどうすりゃいいの」

「ヤカンのお湯は、冷めてから捨てればいいんですよ。…………でも、子供の頃にこの音聞くと、なんか面白いなぁって思ってたんですよねぇ〜。懐かしいな」

フフフと一人で口元を緩めていると、彼がマスク越しにふっと笑ったのが気配で分かった。
すぐさま顔を確認するが、残念ながら目元しか見えないので笑っているかどうかは微妙なところだった。

たぶん笑ったような気がしたんだけどなぁ。


「私がここで寝ている間、何されてたんですか?」

コーヒーが冷めるまで、無言でいるのも気まずいので一応こちらから話題を振る。
シンクの台に持たれながら、彼は今度は腕を組んで首をかしげた。

「何って、事務仕事」

「…………事務仕事?」

「パソコンで報告書作ったり、明日以降の計画書の確認したり」

「………………」

「なんだよ、その目は」


ハッと自分がどんな目をしてたのかと我に返る。
どうやら私の考えていることを見透かしていたらしい彼は、やたらと高い身長を生かしてこれでもかと見下ろしてきた。

返せるものは、苦笑いただひとつ。

「こういう仕事してるやつはパソコンなんか使えるわけがないと思ってんだろ。そう書いてあるよ、顔に」

「いやいや、そんなことは……」

ない、と断言できないところがまた正直者の私らしい。

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