サイレン


「あんた、明日……ってか今日仕事は?」

帰り支度を始めながら、彼が尋ねてくる。
室内にあるテーブルに広げていたノートパソコンの電源を切って、閉じたものを所定の位置に戻していた。
さらには出ていた書類を手早くファイルにしまっている。

無骨な手がトントンと紙を揃えている様は、なんだかちぐはぐな感じ。

「私は休みです。休みじゃなきゃ飲みに行かないし」

ようやく熱さが少し落ち着いてきたコーヒーを飲む。
飲み干したカップを洗おうとしたら、「シンクに置いといて」と言われたのでそうした。

そして、ふと嫌な予感がした。

「……まさか、あなたは仕事?」

「まあ。でも午後から出勤」

ひぃー!なんてことだ!
午後から出勤と言ったって今は四時半なわけだから、睡眠時間なんか全然取れないじゃないの!

「重ね重ねすみません……」

「ほんとにな。誰かさんのせいで最悪だよ」


彼はそう言いながら頭に巻いていたタオルを取ると、犬がやるみたいに頭を振った。そして、がしがしと髪の毛をかく。
目にかかりそうな黒髪がふわふわと揺れる。
髪の量が多いらしく、まるでゴールデンレトリバーみたいだと思った。

そして、そのまま着ていた上の作業着を脱いで白いTシャツになったかと思ったら、まったく躊躇うことなくそのシャツを脱ぎだした。
これにはさすがの私も動揺。

「ちょ!ちょっと!裸になるなら場所選んでよ!」

この手の仕事をしている人って絶対的にいい身体をしているものだと思っていたけど、その通りだった。
細いけど、しっかり筋肉のついたなかなか素敵な……って違うだろ、私!

「帰るのに着替えて何が悪いんだよ!いちいち見んなよ」

「不可抗力でしょーが!目の前でいきなり脱ぐとか心の準備が……」

「うるせぇな、さっきまでそこで寝てたくせに」

それを言われると何も言い返せない。
うっ、と言い詰まってしまい、彼の方には言い負かしたという優越感が垣間見える。

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