サイレン
「なんか、すみません。何から何まで」
「気にすんなとかそういう下手な嘘は俺は絶対つかねぇからな」
「……でしょうね」
だって、この人お世辞とか言わなそう。
本当に思ったことしか口にしない性格っぽいのは、少しの時間しか共にしてないけどわかる。
─────時刻は五時過ぎ。
靴もコートも身につけられない私は、彼のダウンジャケットを借りて、さらには車で家まで送ってもらうことになった。
この時間だからタクシーもつかまえられなくて、仕方なく。
仕方なく、って言うのは、私じゃなくて彼の方。
気を遣うことなく面倒くさいオーラを全開にして、私を助手席に乗せて運転していた。
会社を出る時に社名を見たら、名前はなんとなく知っている土木会社だった。
どうしても勝手なイメージが先行してしまうのだが、男性の多い職場では掃除など行き届いていないのかと思っていた。でも、今日私が寝ていたあの休憩室という部屋は綺麗にされていたし、そういう面ではちゃんとしていることに驚いた。
一種の偏見みたいなものかもしれない。
空がほんの少し白みかけていて、夜明けの訪れを知らせている。
空気がピンと張りつめたように冷え切っているのが車の中からでも分かる。
道路はとても空いていて、信号にもあまり引っかからずにするすると進む。
このまますぐに家に着きそう、と窓の外を見た。