サイレン


ほとんど車のない三車線の大きな交差点で、赤信号のために停まった。
運転席をちらりと見ると、ハンドルに右手だけ添えて前方を見ている。髪の毛の隙間から少し眠そうな目が確認できた。

……仕事中は目だけが見えていて、プライベートでは鼻と口だけが見えてる。そんな感じ。いずれにせよ、つねに顔の半分は見えない。

「……腹減ったな。なんか家にあったかな」

独り言ともとれるその言葉を、会話のきっかけとして即座に拾い上げた。

「自炊とかするんですか?」

「しない」

「え?じゃあ何食べるの?」

「普段は外食かコンビニ。家には牛乳とバナナと、カップラーメン」

不摂生極まりない食生活を送っているこの男に、ついつい私も説教じみた口調で返す。

「いい歳してそんなものしか食べてないなんて体壊すんじゃないの」

「ほっとけよ。あんたこそいい歳して飲みつぶれるとか恥ずかしいと思わねぇのか?」

……痛いところをつかれた。
そもそも、「いい歳して」ってお互いに言ってるけど、何歳なのかも知らない。
─────あれ?その前に、名前は?

「ねぇ、名前なんていうの?」

「なんでこの流れで名前に行き着くわけ?」


まるでオチのないコントみたいな会話を繰り広げながら、私たちは流れるように二十四時間営業のファミレスへと足を運ぶことになった。







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