一途な騎士はウブな王女を愛したくてたまらない
第一章
1.月下の迷子と白銀の騎士
夜気に冷えた石畳みを蹴って路地を曲がる。
吐き出す呼吸は乱れ、胸の鼓動は限界を訴えるように強く早く脈打ち続けていた。
走り続けた足は重く、すでに力を失いつつある。
膝が震えるのを感じ、これ以上は逃げられないと悟ったメアリは、肩で大きく息をしながら、薄暗い路地に視線を走らせた。
(どこかっ、隠れられる場所は……!?)
左右には、自身を挟むようにして建つコンクリートの壁。
三階建ほどの高さがある灰色のそれは梯子もなく、よじ登ることは叶いそうにない。
身を隠せるような置物も瓦礫も見当たらず、いっそ憎らしいほどの綺麗な裏路地が伸びているだけ。
しかも運の悪いことに路地の先は行き止まりだ。
(一か八か引き返すしか……でも足がもう……)
迷う暇もなく、しつこく追ってくる足音が近くなり、メアリは黒味を帯びた茶色い瞳を恐怖心に揺らした。
相手がひとりならば、習った護身術が役に立つかもしれないが、何せ三人もいる。
しかも一般人ではなく、斧や短剣を所持した野盗だ。
(こんなことになるなら、もっと真面目に習っておけば良かった!)
後悔しても時すでに遅く、男たちはついにメアリの背後に追いついた。
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