一途な騎士はウブな王女を愛したくてたまらない
「それはもう気にしなくてもいいよ」
「でも、あの時ユリウスがフォローしてくれなかったら、私はただ皆を見送るしかなかったかもしれないから」
それだけでなく、イアンと共に残り、不安に駆られながら戴冠式を行っていたかもと思えば何度でも感謝したい気分だった。
誤魔化すつもりの話題だったけれど、また伝えられて良かったとメアリが口の端を穏やかに上げていると、ユリウスは「感謝はいらない」と零す。
「俺はただ、自分がしたいことをしただけなんだ」
だから、感謝はもうしないでくれと願われて、メアリはユリウスのしたいことが何を指しているのかを考えた。
けれど、その答えが導き出される前に、ユリウスの手がメアリから離れる。
「さあ、できた。もう行けるかい?」
「は、はい」
出発を問われ、今は気持ちを切り替えねばと背筋をピンと伸ばした。
そして、緊張を解そうとプレートアーマーの上から胸元に手を当て、深呼吸をする。
そんなメアリの様子を見ていたユリウスは、瞳を柔らかく細めた。
「大丈夫。君は俺たちが必ず守る。傷つけさせたりしない」
「私も守りたい。あなたや、このアクアルーナと、そこに住む人たちを。大切な人たちを。だから、どうぞよろしくお願いします」
心を込め、頭を下げたメアリの耳に届いたのは、ユリウスの受諾の言葉でも、鼓舞する励ましでもなく。
「俺のことは、守らなくていい」
否定の言葉だった。