一途な騎士はウブな王女を愛したくてたまらない
恐ろしい魔物が何体もいることを想像すると背筋が凍る思いだが、今は弱音や愚痴を吐いている場合ではない。
医療部隊の者が傷を負っているなら、自分が役に立つかもしれないとイアンを見た。
「手が足りないなら、私が行ってきます」
「あなたが? しかし危険です」
「ジャバウォックは皆さんのおかげで倒されたんですよね。それなら危険はないです」
「それだけじゃない。今夜は……」
イアンは今宵が満月だと言いたいのに気付き、メアリは逡巡する。
けれど、いつ発動するかわからない力を警戒して今苦しんでいる人を放っておくなどメアリにはできなかった。
「できる限り気をつけます。だから今は治療に行かせてください」
頼み込むメアリの横にユリウスも並び立つ。
「メアリ王女。俺も行きます。用があって後方に向かったセオも戻ってない」
言われて思い出したのは宿場町に到着する少し前。
この辺りは敵襲の危険性も少ないだろうと、警戒部隊を最小限とする陣形での宿営が決定し、それをユリウスが指揮する第三部隊に所属するセオに連絡を任せたのを。
確かにそろそろ戻ってきてもおかしくない。
ましてジャバウォックの話を聞いた今、ユリウスが心配するのもよくわかる。
そして、セオの様子が気がかりなのはメアリも同じだった。
「イアン様、ごめんなさい。私行きますね」
なるべくすぐに戻れるように頑張りますからと言い残し、メアリはジョシュアから譲り受けた薬の入った袋を手にユリウスと共に駆け出した。
去っていく二人の背を見つめ、イアンは深い溜め息を落としてから、未だ膝をつく近衛騎士に告げる。
「まったく……。第二部隊のルーカスに状況を報告しておいてくれ。私はこの町の医師のところに受け入れを要請してこよう」
「はっ! 承知いたしました!」
そうして、騎士が出て行くとイアンもまた宿を出たのだった。