一途な騎士はウブな王女を愛したくてたまらない
濃紺の空、満月が登りすっかりと夜の帳が下りた頃。
怪我人が皆宿場町に到着すると、イアンが手配した診療所にすぐさま運ばれた。
動ける医療部隊の者たちは医師に頼まれ共に治療に当たることになり、メアリもまた手伝おうとしたのだが、今度こそイアンに止められ仕方なく宿屋に戻った。
入浴で体の汚れを落とし、レースが施された白いナイトドレスとガウンを羽織ったメアリは、暖炉の火が爆ぜる音を耳にしながら丸い月が夜空の高い位置で輝いているのを部屋の窓から眺める。
今のところ予知の力は発動していないけれど、稀に視ない夜もあるので、もしかしたら今日はそんな日なのかもしれないと考えた。
だとしたら、やはり手伝いたかったなと最後まで手を尽くし切れなかったことを悔いていた時だ。
──コンコン。
ノックの音がして、メアリは月から視線を外して振り返る。
「はい」
「ユリウスです。おやすみ前にすみません。少しだけよろしいでしょうか」
扉越しにくぐもって聞こえた声に、メアリは「大丈夫です。どうぞ」と入室を促した。