一途な騎士はウブな王女を愛したくてたまらない
耳に届くのは幾多の金属音。
ぼんやりとしていた焦点が合うと、目の前に広がる光景にメアリは呼吸を止めた。
剣と剣がぶつかり、槍が肉を引き裂き、争いから生まれた怒号が飛び交う。
離れたところで風に揺れる血のように赤い旗に目を奪われていると、誰かに名を呼ばれた。
振り向くと、背に何本もの矢を受けて負傷するウィルと、血だらけになりながらもメアリを馬に乗せようとするルーカス。
「フォンタナまで走れ!」
その声がハッキリと聞こえた次の瞬間、馬が走り出した。
遠ざかる戦場を馬上から振り返るメアリ。
ルーカスが、槍兵に囲まれているのが見える。
絶体絶命。
誰かルーカスを助けてと願った時、思い出す。
彼はどこに──。
そう考えた刹那。
「メアリ」
ユリウスの呼び声に、メアリの意識は現実へと戻った。
鮮明な光景と生々しいまでの記憶や感触。
そして、ふたつの瞳に残る熱。
自分が視たものが予知であると確かに感じる一方で、メアリは非常に焦っていた。
ユリウスが、メアリを見つめているからだ。