一途な騎士はウブな王女を愛したくてたまらない
彼はいつから自分を見ていたのかと、予知の前のことを思い出す。
お辞儀をした彼が頭を上げたのはいつか。
瞳の熱はもう引いた。
でも、その直前、彼は自分の目を、赤く染まった目を見ていなかっただろうかと、メアリは緊張に唾を飲み込む。
「ユリウス……あの」
パチ、と暖炉で揺れる炎が音を立てると、メアリの声にユリウスは薄く笑みを浮かべて「なにか?」と返した。
(見られて、ない?)
目の前のユリウスには、驚いた様子も訝しむ素振りも見られない。
もしかしたら、就寝前だった為に部屋を照らす明かりが最小限だったのが幸いだったのかもしれない。
赤々と燃える暖炉の炎と寝台の横で優しく灯るランタン。
昼間よりも柔らかな橙色に包まれた室内は、メアリの瞳を染めた赤をうまく隠してくれたのでは。
それならば、ユリウスが気づいていないのも納得できると、メアリはそっと胸をなでおろした。
「いえ、なんでもないです」
「そう? それなら、俺はこれで」
ユリウスの口調もいつものものに戻っていて、メアリはそのことにも安堵を覚える。