一途な騎士はウブな王女を愛したくてたまらない


「ユリウス、これは」


いったい何の音なのか。

もしかして、その時が訪れたのかと予想しながら震える声で問いかけようとしたメアリだったが、ユリウスは気づいていない様子で眉をひそめどこか嘲るような笑みを浮かべた。


「よほど信用が……える。いや……元より誰も……ないか」

「え?」


話しかけるというよりひとりごちるという方が近い声。

太鼓の音が邪魔をして途中の言葉がよく聞き取れず、落ち着かない鼓動を感じながらもメアリは首をひねる。

その時、耳をすませなだらかな山裾を食い入るように注視していたセオが大きな声で告げる。


「見えた! ヴラフォスの旗だ!」


その名に、メアリの心臓が口から飛び出るかと思うほどに跳ねた。

やはり、予知で見た時がきてしまったのだ。


「これはまた、イアン殿とメアリ王女には驚かされる展開だ」


槍兵だったか、とルーカスは呟き、全軍に戦闘態勢を取るように指示すると、ラッパの音が鳴り響き、まるで波立つかのごとく後方の騎士や兵たちが剣を抜いていく。


「王女に近寄らせるな! 守り抜け!」


ユリウスの凛とした声に、第二、第三部隊の近衛騎士たちがメアリの盾になるように囲み整列する。

大地を唸らせるのは、ヴラフォス兵が駆ける無数の足音。

対抗するべくアクアルーナの弓兵がヴラフォス兵の進撃を阻止すべく配置につき、「放て!」の声を合図に空に向かって弓を撃った。

青空を駆け雨のごとく降り注ぐ矢は、盾を持たぬヴラフォス兵の身体を射抜き、その足を止める。

しかし、その数は多くなく、盾を構えて突き進むヴラフォス兵は着々と接近し、再度弓兵が構える中、剣や槍を携えたアクアルーナの兵たちが迎え撃つ態勢に入った。

そして間も無く、震えて手綱を握ることしかできないメアリの前で両軍の波がぶつかり合う。


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