一途な騎士はウブな王女を愛したくてたまらない
「お前が出るということは、この奇襲、モデストの命か?」
問いかけて再び剣を振るうと、ザエル黒騎士長と武器が交わった。
ユリウスは剣圧を感じながらも今一度口を開く。
「答えろ。目的は王女か?」
腕にぐっと力を込めて、答えなければ次の一手で決めるとばかりに眼光を鋭く光らせると、兜越しにザエル黒騎士長のくぐもった声が溢れた。
「……見極めろと」
「……それは、どちらをだ?」
呆れたように、しかし怒りを込めてユリウスが静かに確かめる。
だが、それに答える気がないのか、ザエル黒騎士長は力任せにユリウスの剣を押して逃れると、急ぎ馬を反転。
そのままヴラフォス軍本隊へ向かい背を向けた。
ユリウスは軽く舌を打つと、メアリを振り返る。
そして、無事であることを確認すると馬の腹を蹴った。
「イアン殿! メアリ王女を頼みます!」
ユリウスの目が追うのは馬で疾走するザエル黒騎士長の背中。
まさか彼を討つ為にあの敵陣の中に突っ込むつもりなのかと、メアリはユリウスの名を叫んだ。
しかし、ユリウスは振り返ることなく戦乱で舞い上がる粉塵の中に消えていく。
「イアン様! ユリウスが!」
「彼は強い。きっと戻ってきます」
だから今は自分の身を守るようにと言われ、メアリは不安を振り切るようにひとつ頷いたのだった。