一途な騎士はウブな王女を愛したくてたまらない
「そうかもなぁ。まあ、メアリは"僕の"メアリだ。王だろうが、君の父上がひょっこり帰って来ようが、僕は僕の育てた可愛いメアリを簡単に渡すつもりはない!」
堂々と言い切ったジョシュアにメアリが苦笑していた直後のこと。
「これは、君の婚期も遅れそうだなぁ、メアリ」
突如、背後から聞こえた低く心地の良い声にメアリたちが振り返ると、ユリウスと同じく肩に月の紋章を付けた男がふたり歩いて来る。
「ルーカス様! ウィル!」
「よっ、メアリ。さっき野盗を引き連れたセオから君がピンチだったと聞いたぜ」
黒いグローブをはめた右手を軽くあげて微笑むのはルーカス・シルフィールド。
近衛騎士としてはユリウスより2年ほど早く就任しており、第二部隊の隊長を務めている。
「お、お騒がせしました……」
メアリが深々と頭を下げると、ルーカスは「いやいや」と腰に手を当て立ち止まった。
「君が無事で何よりだ」
そう言いながら、艶のある黒髪から伸びる長い銀色の襟足を揺らし笑みを深めるルーカス。
その横に並ぶウィルは、一歩前に踏み出してメアリの前に立った。
「怪我はないのか?」
抑揚のない落ち着いたウィルの声にメアリは微笑み頷く。
「大丈夫。ありがとう心配してくれて」
「別に……心配なんてしてない」
少し癖のある栗色の髪を揺らし、顔ごと視線を反らすウィル。
けれどその行動が照れからくるものだと承知しているメアリは、ウィルにバレないようにクスッと笑って「聞いてくれてありがとう」と言い換えた。