一途な騎士はウブな王女を愛したくてたまらない
「ええ、それです。まず街道での奇襲についてですが、あの数が動けば斥候も気づくはず。けれど、気づかなかったということはどういうことかわかりますか?」

まるで戦術の勉強でもしているように訊ねられ、メアリはやや緊張しながら答える。

「えっと……斥候が内通者ということですか?」
「おしい。正確には斥候も、です」
「ひとりではないんですか?」
「可能性の域を出ませんが、少なくとも斥候の者は調印式の退却ルートを事前に知らされてはいない。知るのは私とオースティン、そして近衛騎士団の各隊長のみでした」

静かに、けれど固さを持った声が明かした事実は、メアリの心臓を大きく跳ねさせた。


「そんな……内通者が、近衛騎士たちの中にいるなんて」


信じられないと頭を振るメアリの声は僅かに震えている。


「ロウでの戦闘後、オースティンとも話しましたが、可能性は高いかと」

「だ、誰かは……」

「そこまではまだ」


近衞騎士団の隊長は全部で五人。

第一部隊はオースティンが、第二部隊にはルーカス。

そして、第三部隊はユリウスが務め、続く第四、第五の部隊長はイザークとクラウスという兄弟が就いている。

どの者も王立騎士団から上がってきた為、アクアルーナの騎士としての暦はそれなりに長い。

騎士として尽くす姿からは裏切りを行うようにも見えず、メアリはただ困惑しながら屋敷の廊下を進んだ。


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