一途な騎士はウブな王女を愛したくてたまらない
『ジークムント皇帝陛下は、アクアルーナ王国と休戦協定を結ぶことを願っておられます』
アクアルーナにヴラフォス帝国の宰相であるモデスト・テスタが訪れ、休戦を持ち掛けてきたのだ。
和平を求めるアクアルーナ国王に断る理由はなく、けれど急な申し出ゆえに生じた警戒心は維持したまま提案を受諾。
調印の執り行いについてはまた改めてと、ヴラフォスの宰相は数名の護衛と共にアクアルーナ城を出た。
その際、ジョシュアに頼まれ調合した薬を届けに城の門をくぐろうとしたメアリは、偶然にもモデスト・テスタ宰相とすれ違った。
歳はアクアルーナ王と同じくらいか、少し下だろう。
背は高く、芳醇な葡萄酒色に染められた丈の長いコートを羽織った男性。
首元を飾る白いスカーフの形を直しながら、低くねっとりとした声で護衛の者に『皇子は?』と訪ねていたのをメアリは覚えている。
アクアルーナには皇子はいないので、不思議に思い記憶に残っていたのもあった。
ヴラフォスの宰相だと知ったのは、薬を渡す際に国王にメアリが尋ねたからだ。
先程、どことなく近寄りがたい特別な雰囲気を待つ方を見かけたと。
国王に特徴を聞かれ答えると、モデスト・テスタ宰相の名が挙がったのだ。
そして数日後、メアリは城下町の中央広場に掲示された布告で、アクアルーナとヴラフォスが休戦に向け、近々に調印式を執り行うことを知った。