一途な騎士はウブな王女を愛したくてたまらない
「敵国の……皇子?」
確かめるようにユリウスの言葉を反芻したメアリの瞳は驚きに揺れる。
反対に、ユリウスは落ち着いた態度で、しかしその琥珀色の双眸の奥に仄暗さを宿し頷いた。
「俺はヴラフォスの第二皇子、ユリウス・イルハザードだよ」
「ユリウスが、ヴラフォスの第二皇子?」
ヴラフォスには皇子が二人いることをメアリは政治に関する勉強時にイアンから聞いたことがある。
けれど、どちらも病弱で政治にも軍事にも関与せず国内で療養していると教えられた。
必死に手繰り寄せる記憶の中に、メアリは二人の皇子の名を見つける。
第一皇子の名はルシアン。
そして、第二皇子は……「そうだ」と、思わず呟く。
書物に記された名を見た際、確かに憧れる騎士と同じだと思ったのだ。
「ユリウス、皇子」
偶然だと流し、特に話題にも出さなかった皇子の名をメアリはユリウスに向けて声にした。
まさか、ヴラフォスの皇子が近衛騎士としてアクアルーナで名を馳せているなど誰が想像できただろうか。