一途な騎士はウブな王女を愛したくてたまらない
いきなりのことに軽く混乱しかけた直後、ユリウスの唇が耳元に寄せられたかと思うと「宿帳に偽名を使って夫婦だと書いた。それらしく振舞ってくれ」と囁いた。
万が一、追っ手が訪ねてきた際の対策なのだろう。
けれど、今まで恋人がいたことのないメアリは、それらしくと言われてもよくわからず、ひたすらぎこちない動きで階段を上る。
宿泊する部屋に辿り着いた時には呼吸さえ止めていて、メアリはプハッと口を開けた。
そのタイミングでユリウスがくつくつと喉を鳴らして笑い、メアリの細い腰から手を離す。
「あれでは怪しまれる。もう少し寄り添ったりしてくれないと」
「む、無理です……」
まだほんのりと赤みを帯びた頬を両手で覆い隠し眉を下げるメアリの視界に、宿屋の主人が話題にしていた寝台が飛び込んできた。
鼓動が飛び跳ね、頬の熱も戻ってしまう。
今度は耳まで真っ赤にしたメアリを見て、荷物を床に下ろしたユリウスは口の端を意地悪く上げた。
そして、メアリの顔を横から覗き込むと琥珀色の瞳を細める。
「いっそ、本当に抱き合って寝てみようか? 少しは慣れるかもしれない」
「ななな、何を言ってるの!?」
思い切り動揺し後ずさったメアリに、ユリウスは吹き出して笑った。