一途な騎士はウブな王女を愛したくてたまらない


「冗談だよ。俺は床で寝るから、君はベッドを使って」

「ダ、ダメです。私は床で大丈夫だから、ユリウスがベッドで寝てください」


洞窟であれだけの魔物と戦っていたのだ。

自分よりも身体を休めるべきだと思ったメアリは気遣って勧めたのだが、ユリウスは「じゃあ、仲良く床で抱き合って眠ろうか」とまたしてもからかう。


「もうっ、なんでそうなるんですか」


一度冗談だと言われたおかげで、今度は大きな動揺もせずに言葉を返した。

けれどまだ少し鼓動は早く、これをどう静めるべきかとメアリは気を紛らわせるものを探し室内を見渡す。

部屋の中央に置かれた寝台と、小さな丸い木製のテーブルがひとつ。

それを挟むように椅子が二つ設置されていて、壁には優しく室内を照らすランプが飾られている。

ゆっくりと靴音を鳴らしながら室内を観察するメアリを横目に、ユリウスは扉から見て真正面にある両開きの窓の前に立つと、村の様子を伺った。

アクアルーナの追っ手の姿はなく、妙な動きをする者も見当たらないことを確認したユリウスは、踵を返し扉へと向かう。


「何か食べる物を買ってくる。メアリはここで待っててくれ」

「あの、一緒に行かなくていいの?」

「君は逃げ出したりしないと信じてるから。なんなら寝ていてもかまわないよ」


いってきます。

穏やかな声で言い残し、部屋を出ていくユリウス。

廊下を歩く音が遠ざかり、静かになった室内。


「ずるい」


逃げるつもりはなかったけれど、信じているという言葉で縛るユリウスの駆け引きにメアリはひとり、ポツリと声を零した。


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