一途な騎士はウブな王女を愛したくてたまらない
夜空を見上げるメアリは、大きな瞳に煌々と輝きを放つ満月を映した。
「皆さんが無事に帰って来る光景を夢で視ることができれば、心配なんてせずに済むんだけど」
隣に立つジョシュアも、メアリの声につられるように丸い月をその目に認めると「そうか、今夜は満月……」と発したかと思えば、突如「ハッ!?」と碧眼の瞳を力強く見開いた。
「もしかして、野盗から逃げられたのは……」
「そうなんです! 間一髪でしたけど、ユリウス様たちが助けに入ってくれる様子がタイミングよく視えて!」
メアリは明るい笑みを浮かべて少し興奮気味に答えた。
「そうだったのか! 今日が満月の夜で良かったな」
喜ぶジョシュアはメアリの細く柔らかい髪をくしゃくしゃと撫でまわした。
満月の夜だけ、メアリが”視える”もの。
それは”未来”だ。
けれどその範囲はメアリ自身、もしくはメアリの知る者に限る。
対象がメアリと関わっていない場合は、その未来を視ることはない。
また、メアリのその力は自在に操れるものではなく、メアリの意思に関係なく突然視えるのだ。
先ほど、野盗に襲われた際、メアリに視えたのは自分の背後から矢が飛んでくる光景と、野盗らの背後からユリウスが切り込んでくる姿。
けれど、野盗の一人が落ちた短剣を拾い上げ、メアリの首に突きつけ人質に取られるというものだった。
故に、メアリは真っ先に石畳に転がった短剣を奪ったのだ。