一途な騎士はウブな王女を愛したくてたまらない


自分が攫われている身でなければ、いっそヴラフォスの者であれば手放しで喜ぶところだが、アクアルーナの王女であるメアリには曖昧な笑みが精一杯。

嫌味ではなく、複雑な心境で口にした言葉だということはユリウスも理解でき、彼もまた呆れたように微笑んだ。


「君は俺が憎くないのか?」

「……確かに、あなたが情報を流したから父は亡くなったのかもしれない。でも、ユリウス。あなたが心を痛めていたのを私は知っているから」


まだメアリが王女だと知らなかったとしても、死ぬべきは王ではなかったという言葉を零してしまうほどに。


「わざとそう振舞っていたとは考えないのか? 知っている気にさせられているのだと」

「そんな人なら、私にチャンスをくれたりしない。わざと振る舞うような非道な人なら、私の意識を失わせて攫うことくらいできたはず。けれどしなかった。それどころか、殺せと、今しかないと言って、自分の命と引き換えに、アクアルーナを守ろうとしてくれた。あなたは、ヴラフォスの皇子様だけど、私にとってはアクアルーナの騎士だわ」


私はそう感じたし、そうであると信じているとメアリがハッキリと伝えると、ユリウスは嘲るように笑う。


「残念だけど、君の騎士である俺はもういない。君の護衛にと手を挙げたのも、君を見張りつつ君からの信頼を得て、こうして連れ攫う為だ。結果、氷の上をゆっくりと滑るように事はうまく進んだ」

「じゃあ……私を王女だと知る前に見せてくれていたあなたの優しさも、微笑みも、言葉も全て偽りだった?」


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