一途な騎士はウブな王女を愛したくてたまらない
「目は? 見られたりは?」
「野盗の一人に気付かれたけど、暗かったしハッキリとは見られていないと思います」
未来が視える際、平時はダークブラウンの色に染まっている双眸が赤色に変わる。
メアリ自身、瞳がじわりと熱を持つような感覚に見舞われているのだが、意識が覚醒している中で未来を視る時は、熱を感じた直後、脳内に映像が一気に映し出されるので瞳を隠す余裕はない。
睡眠中なら夢のような感覚で視れるし、起きる瞬間だけ瞳の色が変化しているので人に見られることないが。
「まあ、捕まった野盗がもしそのことを零したとしても、一人なら勘違いで通せるだろう」
「ごめんなさい、見られてはいけないのに」
「いつ見られるかは予想できないんだ。それに、謝ることはないよ。昔、君のその力で僕は助けられたんだ。そして今日は君自身を救った。誇るべき力だ。けれど……あとは言わなくてもわかるね?」
「はい」
この力が悪用されないとは言い切れない。
メアリの父も、メアリを守る為に離れて暮らしているのだ。
離れてどう守っているのかは未だにわからないが、自分の力が誰かを苦しめることになるのは耐えられない。
だから未来を視る力のことは、父とジョシュアとメアリ、この三人だけの秘密となっている。
「さあ、帰って夕食にしようか」
少しだけ重くなった雰囲気を払うようにジョシュアが微笑む。
「はい!」
「あと、ユリウス殿が君の誕生日を祝うって話を、美味しい夕食を堪能しながら詳しく聞かせてもらおうかな」
「えっ」
「ことと次第によってはユリウス殿に皆が嫌がる僕特製のクソ苦い薬を毎日飲んでもらおう」
微笑みを黒く染めるジョシュア。
そんな彼の横を歩くメアリは、うっかりユリウスが苦みに倒れないように慎重に説明をしないといけないと、気合を入れて背筋を伸ばした。