一途な騎士はウブな王女を愛したくてたまらない
冬の寒さを和らげる太陽の下、馬の蹄が街道をリズム良く蹴って進む。
コリーナ村を出たメアリとユリウスは、一頭の馬に共に跨りティンバーを目指していた。
フォレスタット王国は緑が多く、壁のように連なる木々を両脇に眺めるメアリは、少しだけ心が踊ってしまうことに罪悪感を抱く。
攫われていることは重々承知だが、旅をしたことがないメアリには、知らない景色の中に飛び込んでいることが嬉しいのだ。
もちろんこれからどうなるのかという不安は常に胸の内にある。
加えて、昨日よりもユリウスが素っ気ない様子で、そちらも気がかりだ。
馬上から見渡す景色が癒し心を慰めてくれていなければ、メアリは顔を曇らせながら馬に揺られていただろう。
後ろに座り手綱を握るユリウスに、以前のように気軽な調子で話しかけることもできないまま、夕刻、どうにか陽が落ちる前にティンバーに辿り着いた。
コリーナ村に入った時と同様、まず宿屋を探しに向かう。
ここティンバーはヴラフォスとの国境に近い為、比較的大きな街だが、アクアルーナ王国のフォンタナよりも軍事に力を入れており、鎧を纏う兵の数も多い。
強化の理由は当然、ヴラフォス帝国の進軍を警戒する故だ。
また、アクアルーナのロウがヴラフォスに奪われたのはフォレスタットの国民も知るところであり、フォレスタットの軍は一層目を光らせている。
しかしながら、メアリが今目にしている光景は戦争という物々しさを感じさせないものだ。