一途な騎士はウブな王女を愛したくてたまらない
「ルシアン皇子様は帝都ではなくイスベルにお住まいなんですね」
「兄は身体が弱い。帝都は雪も多く寒いから、フォレスタットの薬も手に入りやすいイスベルに移ったんだ」
なるほどとメアリは頷く。
緑に溢れたフォレスタットは様々な薬草が手に入る土地だ。
実際、ジョシュアが仕入れている薬草も商人がフォレスタットから入手しているものが多くある。
「ユリウス皇子も幼い頃から身体が弱いとイアン様から聞いたけど、イスベルに住んでいたの?」
兄と共に宮殿で暮らし、良くなったからアクアルーナに潜入していたのかと想像していると、ユリウスはフ、と息で笑った。
「俺の情報は偽りだよ。兄が病弱であれば、当然、王位継承権は第二皇子である俺にという話が出てくる。だから、弱い振りをして期待の目を払った」
「皇帝になりたくないの?」
「興味はないし、その器は兄にこそある」
王位を継ぐべきは兄のルシアンにある。
ユリウスがそこまで言い切るルシアンとは一体どんな人物なのかと想像し、やがて馬は石造りの重厚な黒い門の前で足を止めた。