一途な騎士はウブな王女を愛したくてたまらない
十六の時にヴラフォスを出てアクアルーナに潜入した息子が帰ってくる。
ユリウスとの再会を皇帝は楽しみにしていたのだろうと単純に考えたメアリ。
もちろん、皇帝とモデストがメアリを見定めに来る目的もあるとは考えているが、どちらかといえば子の顔を見たい思いが強いはず。
だからメアリはそう答えたのだが、ユリウスは口元に薄笑いを漂わせた。
「メイナード王ならそうだろう。でも、俺の父は違う。心を凍らせた父は、その瞳に息子の俺を映しても何も思わない」
冷めた声で父を語るユリウスは、それきり黙ってしまう。
自分の感覚で話してしまいユリウスの気分を害してしまったと、メアリは申し訳なく思いながらイスベルの街並みに目を向けた。
門からまっすぐ伸びるメイン通りには、兵士とイスベルに住む民が行き交う。
ヴラフォス帝国は領土のほとんどが寒冷地にあるが、イスベルはフォレスタットに近く北の帝都に比べると寒さは厳しくはない。
それでも、街行く人々は温かそうな毛皮の外套を羽織っている。