一途な騎士はウブな王女を愛したくてたまらない
ユリウスと並び、ヴラフォスの皇帝イルハザードの前に立ったメアリは、何も言わず身動ぎひとつしない皇帝にスカートを摘み、片足を下げた。
「はじめまして皇帝陛下。メアリ・ローゼンライト・アクアルーナと申します」
アクアルーナの王女として恥ずかしくないよう心がけ、挨拶をすると、ようやく皇帝が動きを見せた。
「憎いか?」
「……え?」
「休戦を騙り、父の命を奪った国の皇帝である余が憎いかと聞いている」
皇帝の低い声が部屋の空気を一変させていく。
憎いかという問い。
それは以前、ユリウスが仇を討てると仄めかしたものに似ているとメアリは感じた。
試すような言葉の裏に隠されているのはどのような思いか。
それを想像するにはイルハザードという人物をよく知らないメアリには難しく、ただ素直に「憎んで父が還ってくるのでしたら、それがアクアルーナを守る力になるのでしたら、今すぐに憎めるくらいには」と、良くは思っていないことを示した。
憎しみは力を与えるかもしれないが、囚われ、蝕まれたら苦しいものだ。
幸い、メアリには支えてくれる者たちがいた。
だから暗闇に手を掴まれず、目隠しをされず、今、ここに立っていられるのだ。