一途な騎士はウブな王女を愛したくてたまらない
──フォレスタットのティンバー。
昼の市場は活気に溢れ、道行く人も多い。
鍛えた腕を組み、街の様子を高台にある堅牢な砦から眺めていた男は、聞こえてきた足音に振り返った。
「オースティン騎士団長殿、第五陣が到着したようです」
「うむ、報告ご苦労。これで全員揃ったな」
会議の為、部屋に集まっている者たちに話しかけると、足を組んで椅子に腰掛けているルーカスが「全員?」と笑う。
「ひとり欠けてるだろう、団長」
そうだったなと苦笑したオースティンだったが、第四部隊長のイザークが眉根を潜めた。
「へぇ、裏切り者を仲間扱いするのかよ」
「裏切ったが、メアリ王女を守ってる。あいつはまだアクアルーナの騎士だ」
言い切ったルーカスに、イザークは「へいへい」と呆れた声を返す。
二人のやり取りを見ていたセオは、裏切り者と呼ばれた自分の隊長の姿を思い浮かべた。
「ヴラフォスの皇帝、その息子のユリウス皇子……か。隊長、確かに王子様っぽいし、何度口にしても違和感ゼロっすね」
ユリウスをまだ隊長と呼ぶセオ。
共にルーカスの後ろに立つウィルが「敵なのか、味方なのか。会えばはっきりわかるだろう」と口にすると、木製のテーブルに広げた地図を難しい表情で確認していたイアンが顔をあげた。
「ウィリアムの言う通りだ。余計なことは考えず、最良の結果を出せるように全力を尽くしてくれ」
ユリウスが内通者である事実は変わらず、メアリがヴラフォスに捕らえられたことも変わらない。
今はただ、成すべきことを成す。
「クラウスが来たら始めよう」
頷く近衛騎士たちを、部屋の隅に立つヨハンは、静かに見つめていた。