一途な騎士はウブな王女を愛したくてたまらない
メアリは「私が作ったものでよければ」と快諾し、温室に咲いていたオレンジフラワーも精神を安定させて良い眠りへと導く効果がありますと話した。
「では、それを頼みたい」
「わかりました。乾燥させるので少しお時間がかかりますが、出来上がったらすぐお持ちしますね」
オレンジフラワーを乾燥させる必要がある為、完成は六日後に訪れる満月の夜を越えてからだ。
満月の夜、何を視るのかはメアリにはわからない。
ヴラフォスにとって有益なものでない場合、自分がどう扱われるのかも。
けれど、皇帝がポプリを必要としているのであればもしかしたらひどいことにはならないかもと、明るい気持ちでいると、皇帝の視線がメアリの持つ本に移った。
「ルシアンとユリウスがよく真似事をしていた物語か」
兄と自分の名、そして少年時代の思い出を紡がれ、ユリウスは心を震わせる。
「覚えておいでなのですか」
「目で見たものは忘れない。だからこそ、未だに夢に見る。余を裏切ったものたちの最後を。王妃に、親友に。次はお前か、ルシアンか」
「父上、俺と兄上は裏切ったりしません」
「妻が裏切るなら、子も裏切る」
ユリウスの思いは届かず、皇帝はもう用はないとばかりに背を向けた。