一途な騎士はウブな王女を愛したくてたまらない
第五章
1.失いしものと救いしもの
鍵のかけられた黒く冷たい鉄格子を掴んで、メアリはソプラノの声を張り上げた。
「出してください!」
暖炉のない牢屋には白い息が舞い、メアリの身体を容赦なく冷やしていく。
錆びついた鉄格子の向こうに立つのは、モデストだ。
「そう言われて出すくらいなら最初から入れませんよ。まずは満月の夜まで、どうぞここでごゆっくりお過ごしください」
丁寧にこうべを垂れたモデストの嫌味を込めた態度に、メアリは唇を噛む。
「……なぜ今になって私を閉じ込めるんですか」
皇帝が宮殿に到着してもすぐに牢屋には入れず、薬草園で会っても出歩くことを咎めもしなかった。
なのになぜ、深夜、急に兵を伴いメアリの部屋を訪れ、無理矢理牢に入れるのか。
寒さに身を震わせたメアリは、ナイトガウンの合わせを引っ張る。
閉じ込められている空間に明かりはなく、鉄格子の向こう、壁に灯されたランプだけが頼りとなり、その光をうっすらと纏ったモデストは微笑んだ。
「陛下に苦しみ続けていただく為です」
「な……」
「陛下が頼るのは私だけでよいのですよ。メアリ王女は余計なことはせず、大人しくしていてください」
「あなたが、陛下を弱らせたのですか」
ユリウスが疑っていた通り、王妃らを裏切るようにことを動かし、怒りを煽らせ、皇帝を孤独へと追いやったのではないか。
メアリの問いにモデストは笑みを携えたまま答えない。
けれど、ふと、口が開いて。
「……ひとつ、昔話をしましょうか」
突然、モデストが語り始める。