一途な騎士はウブな王女を愛したくてたまらない


「彼は、今でも少女を思い出します。あなたに似た、真っ直ぐな心根を持つ少女を」


少年がモデストであり、ヴラフォスを恨んでいることをメアリは理解する。

そして、モデストを救ったという少女がきっと、母マリアであることも。

しかし、淡々と語るモデストに後悔は見られない。


「まだ、止まれませんか?」


皇帝を闇に落とし、ユリウスを追い出し、母の愛したメイナード王の命を奪っても、まだ。

復讐の終着点はどこなのか。

しかし、モデストはまた答えを返さない。


「せめて、彼女が大切に想うあなたが風邪を召さないよう、こちらを渡しておきましょう」


少年が自分であると認めないままに、モデストは温かな毛布を兵に入れされると振り返ることなく去った。

ひとり残されたメアリは毛布にくるまると藁の敷かれた床に座り、壁にもたれかかる。

そして、そっと首から下がる母からもらったペンダントに触れた。

もし、あわよくば逃げ出せても、ユリウスやルシアンに迷惑がかかるかもしれない。

ならば今のメアリにできることは満月の夜を待つことだけ。

皇帝との約束も守れず、裏切ったと思わせてしまわないかを心配しながら、白息が空気に舞って溶け、また生まれては溶けていくのをメアリはただ見つめているしかなかった。




< 291 / 330 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop