一途な騎士はウブな王女を愛したくてたまらない
男の後ろに控え立っていた仲間が何事かと目を見合わせた時にはすでにメアリの瞳の色は戻っている。
代わりに、さきほどまで恐怖で体を震わせていたメアリの表情が見る見るうちに強さを宿すと、突然しゃがみ込んだ。
その様子に男たちが眉間のシワを深めた瞬間、ヒュンという音と共に、一本の矢が夜の空気を鋭く掻き分け短剣を手にする男の肩に深く刺さった。
「ぐあぁっ!」
短剣がカランと地面に落ち、男は痛みに悶えながら肩を押さえてうずくまる。
すると、メアリはすぐさま短剣を拾い上げて身を守る為に握る……のではなく、夜空に向かって高く放った。
膝をつく男の後ろで警戒態勢に入っている仲間が釣られて視線を上方へ動かす。
メアリに貰ったその隙を、男たちの背後に忍んでいた"彼"は逃さなかった。
月の光を纏った細身の剣が、夜の闇を切り裂くように振り下ろされ、無骨な斧を手にしている男の腕を切りつける。
驚いた男が切られたことを認識し、遅れて感知した痛みに悲鳴をあげると、”彼”は襲撃に動揺し振り返った残る一人の横っ腹も断った。
男たちが皆、苦痛に呻く最中、夜空から落ちてきた短剣を流れるような動作で左手を使い受け取る。
夜の藍に似た、けれどそれよりも優しい色の髪が風に柔らかく揺れ、その前髪から覗くのは煮詰めたはちみつのような色彩を纏う瞳。
いつもは穏やかさを漂わせている甘く端整な顔も、今は緊張を滲ませて辺りに目を走らせた。
そして、その視線がメアリへと向かうと、場に似つかわしくないほどの優しい笑みを浮かべる。
「気を逸らしてくれてありがとう、メアリ」
助かったよと口にし、けれどすぐに眉を心配そうに寄せた。