一途な騎士はウブな王女を愛したくてたまらない
呻き声と共に倒れた兵を見てモデストは自らの武器であるメイスを強く握る。
あとひとり。
次はいよいよ自分に斬りかかるところまできたユリウスを見て、モデストは叫んだ。
「黒騎士隊は! ザエルはどうした!? まだ到着しないのか!?」
フォンタナから撤退させ、ロウで待機していた黒騎士隊を呼び寄せたのは数日前。
ルシアンが何やら裏で動いているとの報告が部下より入ったのだ。
モデストは自分のことが探られているのは知っていた。
ユリウスが怪しんでいたように、ルシアンも疑っているのを。
メアリを逃す事態は避けたいと、いざという時の為に使うつもりでいた黒騎士隊。
だが、いつまで経っても到着したという連絡がないのだ。
目を吊り上げ苛立ちを募らせるモデストに、ふと、涼やかな声がかかる。
「ザエルなら来ないよ、モデスト宰相殿」
聞き覚えのある声に、モデストは眉根を寄せて宮殿の方を振り返った。
そして、溢れんばかりに目を見張る。
声の主がルシアンであることは想定していた。
だがしかし、その隣りにもうひとり。
「へ、陛下……」
ヴラフォス帝国皇帝ジークムントが立っており、モデストは狼狽える。
ユリウスも動きを止め、様子を伺った。