一途な騎士はウブな王女を愛したくてたまらない
二人はグラスを手にすると軽く打ち鳴らして乾杯した。
メアリはグラスのふちに唇をつけて、少しだけ口に含む。
甘酸っぱいレモンの香りが鼻をくすぐり通り抜けていくと、思わずため息が漏れた。
その様子を見逃さなかったエマは、首を傾け高い位置で結ったポニーテールを揺らす。
「なになに? 悩みごと?」
「んー……悩み事というより、心配ごと、かな」
「ついにジョシュア先生がうっとおしくなったとか?」
「あはは、違う違う。調印式は無事に行われたのかなって」
メアリの言葉に、エマはなるほどと呟いてグラスを置いた。
「予定通りなら、七日前の昼にはロウの街で終わってるのよね」
「そのはずだけど……」
本来なら一昨日の夜あたりにはロウからの早馬で調印式が無事に執り行われた知らせがあってもおかしくない。
メアリは昨夜、就寝前にジョシュアも心配そうにしていたのを思い出す。
念のためにと今日は城の医務室に勤務していたジョシュアが重鎮たちに早馬の到着はまだかと尋ねたらしいが、確認の馬を出したばかりでまだ状況が掴めていないとのことだった。
あまり心配し過ぎてもよくないから、気分転換に行っておいでと言われ、メアリはこうしてエマの元にいるわけだが、それでも王や騎士たちの事が頭から離れることはなく、むしろ、酒場の客たちからも同じように早馬による布告を心待ちにしている声が聞こえている。